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<写真:khmertimeskh.com>
トヨタ自動車が部品供給網に対し、自動車産業はいま「生き残り」を懸けた局面にあると警鐘を鳴らしている。中国メーカーの台頭によって、これまでの生産・調達の前提が揺らぐなか、現場の改善手法として知られる「リーン生産方式」も見直しを迫られている。
この変化の波は、自動車組立産業が拡大しつつあるカンボジアにも及び始めている。
トヨタの佐藤恒治氏は退任前、仕入れ先484社の幹部約700人に対し、自動車業界は存続を懸けた戦いのただ中にあると訴えた。佐藤氏は4月1日付で、日本自動車工業会会長などを兼務する新設ポストに就き、業界全体の立て直しに軸足を移した。
後任のコン・ケンタ氏も、業績の数字が示す安定感とは裏腹に、現状は決して安泰ではないとの認識を示している。
2025年に1100万台超を販売したトヨタでさえ危機感を強める背景には、中国メーカーによる低コストかつ迅速な開発・生産体制の存在がある。リーン生産方式を築き上げたトヨタ自らが、部品の品質基準や工程管理のあり方を再点検し始めた意味は大きい。
この変化を注視しているのが、カンボジアでリーン導入支援を手掛けるTrue North Leanの創業者、ビジェイ・アラハム氏である。同氏は自動車部品大手TRWオートモーティブでシックスシグマの改善業務に携わった後、カイゼン・インスティテュートで東アジア地域を統括した。
現在はシェムリアップを拠点に、カンボジアのほか、ベトナム、タイ、ミャンマー、バングラデシュ、インドでも事業を展開している。
アラハム氏は、トヨタの問題意識は単なる競争激化への対応にとどまらず、企業の適応力と意思決定の速さが問われていることを示しているとみる。
とりわけ、これまで厳格に運用してきた品質基準について、顧客価値に結びつかない「過剰品質」が、廃棄や手戻りを生んでいないかを見極める段階に入ったと指摘する。
実際、トヨタは、肉眼ではほぼ判別できないしわがあるステアリングや、顧客の目に触れない変色樹脂を使ったワイヤーハーネスを大量に不合格としてきた基準を見直した。新たな取り組みでは、安全性や機能、顧客の認識に影響しない項目を削り、品質を落とすのではなく、顧客価値に沿った基準へと再調整する考えである。
アラハム氏は、これはリーンの後退ではなく、前提そのものを問い直す「改善(カイゼン)」の実践であると捉えている。
この考え方は、カンボジアの製造業にも大きな示唆を与える。同国では現在、自動車組立工場が10拠点に達しており、フォードがプルサット州で「レンジャー」や「エベレスト」を組み立てるほか、現代自動車や広州汽車集団(GAC)なども進出している。
2025年の車両輸入額は11億ドルに達し、2024年の6億8670万ドルから約6割増となるなど、市場は着実に拡大している。
その一方で、産業基盤はいまだ組立中心にとどまり、部品の現地調達体制は十分とは言い難い。アラハム氏は、長期的な競争力は地場サプライヤーの育成にかかっているとみる。比較対象として挙げるベトナムは、工程管理や制度運用の面で一歩先を進んでいるが、カンボジアにも人材面で高い潜在力があり、経験や仕組みの不足は克服可能であると指摘する。
工場運営で必要なのは、高価な設備投資を急ぐことではなく、まず人材、工程、設備の順に基盤を整えることである。監督者の育成や品質意識の定着を進め、標準作業や工程管理、トレーサビリティーを確立したうえで、機械や測定機器への投資を行うべきだという。
現場には、過剰在庫、待ち時間、手直し、非効率なレイアウト、設備停止といった無駄が潜んでおり、小さな改善の積み重ねが収益力を大きく左右する。
同氏が重視するのが、現場に足を運んで実態を観察する「ゲンバウオーク」である。生産ボードの数字を管理者と確認しながら、設備そのものよりも、シフト運営や作業の流れに潜む問題を洗い出す手法である。
データだけでは見えにくい無駄を拾い上げることが、改善の出発点になるという考えである。
カンボジア市場の特徴は、米国、日本、中国のブランドが大きな関税障壁なしに競い合っている点にある。すでに複数の中国メーカーが現地組立を始めており、アラハム氏は、新たに参入する地場企業にとっては、中国勢の方が取引開始までのハードルが低い可能性があるとみる。
日本企業は認定までに時間を要し、より成熟した管理体制を求める傾向が強いためである。
カンボジアが世界の自動車供給網に本格的に組み込まれるまでには、なお5〜10年を要する可能性がある。ただし、供給企業の能力向上、技術人材の育成、中小企業の参入促進を進めることができれば、同国は組立拠点から部品供給拠点へと発展する余地を十分に持つ。
トヨタが示した危機感は、大手完成車メーカーだけの問題ではない。現場の規律、供給網の厚み、そして品質文化をどう築くかが、次の競争力を左右する段階に入っているのである。
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